2018/08/30

日本語訳:Lord of Soulsのマラキャスむかしばなし

TES公式スピンオフ小説、Lord of Souls(AmazonKindle)からトリニマクがボエシアに食われるおとぎ話を王子が語るシーンです。

登場人物
・Attrebus→アトレバス:インペリアル22歳の帝国の王子様。緑眼金髪。
・Sul→スル:壮年ダンマー男性。短く刈り上げた黒髪。
(簡単なあらすじ:強大な敵から逃れるため、スルがオブリビオンへのポータルを開いたらどこか知らないところに飛ばされて二人はバラバラに。アトレバスが目を覚ますと、灰色の壁で囲まれた出口のない牢獄にいた(全裸で)。そこには同じように(全裸の)アルトマー女性、シランサが捕われていた。彼女はここはマラキャスの領域らしいが、詳しいことは知らんさ分からないと言う。)

「マラキャスのこと、ご存知なの?」
アトレバスは頷きました。「少しなら。乳母が物語を聞かせてくれたんだ。私のお気に入りだった」
「本当?聞かせてくださる?デイドラについてあまり知らなくて」
「彼女のように上手くは話せないけど、話は覚えてる」彼は一呼吸置いて、ヘルナの歌うような口調を回想します。目を閉じて、ベッドに横になっている自分と、横に座り手を添える乳母を思い浮かべます。そうしていると暗闇の心地よさを感じ、無知ゆえに世界のあらゆるものから護られていたあの頃が、つかの間ではありますが蘇ってくるのでした。

「むかしむかし…」と彼は語り始めます。「トリニマクという英雄がいました。エルノフェイで最も偉大な騎士で、時を司る竜の勇者でした。ある日のこと、悪行を繰り返すボエシアを見つけ出し、懲らしめるべく、彼は出立しました。
しかし、ボエシアにはお見通しでした。彼は老婆に化けて、道端に立ちました。
『御機嫌よう、お婆さん』トリニマクはやってきて話しかけました。『我はボエシア公を探し出し、懲らしめようとしているのだ。彼奴の居場所を教えてはくれないだろうか』
『知りませんですじゃ』老婆は答えました。『じゃがこの道の先にいる、わしの弟なら知っとるかもしれんのう。このわしの背中を掻いてくれさえすれば、喜んで教えますじゃ』
トリニマクは頷きましたが、老婆の背中を見てみると、気持ちの悪いできものがびっしりとありました。
それでも、言ってしまったものはしようがありません。彼は胸が悪くなるような腫れ物を掻いてあげました。
『かたじけのうございます』老婆は言いました。『次の分かれ道で左に行けば、わしの弟がおりますじゃ』

トリニマクは道を進みました。ボエシアは近道を急ぎ、今度は年老いた男の姿で現れました。
『御機嫌よう、お爺さん』彼に出会ったトリニマクは言いました。『そなたの姉上にお会いして、貴公がボエシア公の居場所を知っていると聞いたのだが』
『俺は知らん』老人は告げました。『だが俺の妹なら知っているだろう。俺の足を洗ってくれるというなら、彼女のことを教えよう』
トリニマクは頷きましたが、男の足を見てみると、さきほどの老婆の背中よりももっと気持ちが悪く、ひどい臭いがしました。それでも、言ってしまったものはしようがありません。老いた男は妹のことを教えてくれ、トリニマクは道を進みました。ボエシアはもう一度その先を行き、今度は美しく若い女性の姿で現れました。

さて、次はどんな酷い妹が現れるのか、どんな恐ろしいものを洗ったりひっかいたりさせられるのかと、トリニマクはびくびくしていました。しかし美しい少女を目にすると、気分がよくなりました。
『そなたの兄上にお会いしてきた』と彼は言いました。『貴方がボエシア公の居場所を知っていると聞いたのだが』
『いかにも、その通りです』彼女は告げました。『わたくしに口づけをしてさえくれれば、喜んでお教えいたしますわ』
『勿論ですとも』とトリニマクは言いましたが、彼女に口づけようと身を乗り出すと、彼女の口が大きく開きました。大きく大きく、彼の頭よりも開いたかと思うと、ボエシアはひとのみにしてしまいました。
するとボエシアはトリニマクの姿に化けて、ゲップしたりおならしたり馬鹿なことを口にしたり、しまいには大きなうんこをひねり出しました。それはトリニマクの成れの果てでした。うんこは起き上がり、恥ずかしがって逃げ出してしまいました。誇り高い騎士の姿はもうどこにもありません。
彼はマラキャスとなり、彼を敬愛していた全ての者はオークへと姿を変えてしまったのでした。」

話を聞いていた女は、奇妙な眼差しを向けました。
「それがお気に入りの話?」彼女は言います。
「そうだ、私が7歳の頃だった」
彼女は首を振りました。「おまえたちはいつだって、想像力に欠けている」
「どういう意味だ」と、ある考えが浮かびました。「君はアルトマーなんだろう、ハイエルフなんだろう?トリニマクについて聞いたこともないなんて、どういう事だ?」
「私なら、もちろん、トリニマクについてようく知っているとも」シランサは言うと、手のひらを上にして右手を床につけました。その手が溶け始め、流れ広がっていきます。
「お前は一体…」

屈んだままのシランサは、みるみる大きくなっていきます。大きくなるにつれ、その姿を変えていきます。瞳と髪は灰色に褪せ、顔は豚のように膨れ上がり、牙があらわになりました。女性らしい特徴がすっかり消え失せた彼女が立ち上がると、足元がぐらぐらと揺れました。彼は、自分がその手の平の上に立っていて、持ち上げられていることに気が付きました。牢獄の壁が消え失せると、シランサと名乗っていたものは今や数十メートルの大きさにまでなっていたのでした。彼は恐ろしい顔の目の前に持ち上げられました。もう片方の手が現れ、そこには彼と同じように裸で、捕われているスルの姿がありました。
「マラキャス…」アトレバスは息をのみました。

0 件のコメント: