2014/11/24

Dark Ruinsの日本語訳

TESOの書籍"Dark Ruins"(UESPリンク)の日本語訳だよ。
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闇の遺跡
発狂せしキリロ 著

 人々は私の正気を疑い、狂人の烙印を押した。私はその称号を受け入れ、むしろ勲章として堂々と名乗るようになった。この名前こそが、自らが望んで幾度も深淵へと足を踏み入れたことを物語るのだ。世界へ叡智をもたらすため、狂気と混沌の遺跡へ勇敢に立ち向かう。これまで遭遇した脅威から守ってくださった三賢者のおかげで、私はこの知恵を世に広めるに足る明瞭な思考を保っているのだ!

 初めてデイドラの遺跡と遭遇したのは、私がほんの少年だった頃だ。それは古から続く、トリビュナルの守護者へと捧げる秘密の祠だった。群れからはぐれたクワマ・スクリブらを駆り集めている時のことだった。それらを追って人気のない峡谷へ辿り着くと、岩の割れ目から這い出ようとするはぐれスクリブの哀れな鳴き声を耳にした。狭い隙間を潜り抜けた先は広い岩の窪地へ続いていた。だが迷い込んだのは単なる洞窟などではなかった。そう、その場所は彫刻が施された石で埋め尽くされていて、私はたちまち驚きと深い恐怖に支配されてしまったのだ。組み上げられた石は蜘蛛の巣と蜘蛛を模した紋様で飾り立てられていた。そして空間の中央に位置している彫像が象っているのは、ヴィヴェクの守護者たる紡ぎ手、メファーラに他ならなかった。

 彫像の土台部に彫り込まれた言葉が、まるで焼き付いたように頭から離れない。「色情とは愛。嘘とは真実。死とは生。」私は恐怖と同時に興奮をも覚えた。狂気と智の路へと誘われるきっかけとなったのは、このような体験だった。それは言葉には言い表せないが、何かの終焉と同時に別の何かの始まりでもあった。

 私はスクリブたちを群れへと連れ戻し、家族が持つクワマの巣へと帰ってきた。そして荷をまとめ、母に別れを告げ、秘密の祠と未踏のデイドラ遺跡が待つ深淵の探求へと旅立ったのだ。

 打ち捨てられた祠の全てが地下に存在しているという訳ではない。開けた場所ではあるが、人里から遠く離れた所に隠れていたりもする。生い茂った草木や、折り重なった丘陵、岩がちの峡谷などに潜んでいるのだ。海底深くに位置する祠を訪れたことすらある。

 地底の洞窟や集合体に建てられた祠は、屋外にあるものよりも不気味でおぞましく感じられるものだ。だが単に、常闇とまるで押し潰すかのように迫る石壁がそう思わせているに過ぎない。古代の祠のいくつかは闇の中にひっそりと建っているが、巨大な地下洞の中心として機能している場合もあり、その多くは周到な罠か獰猛な怪物、あるいは両方によって守られている。

 十数箇所ものデイドラ遺跡を探訪してきたが、一般に思われているように、放棄され神殿として機能していないものは稀である。デイドラの大公を敬い、崇拝さえしている者が未だに存在していて、有り余るほどの新鮮な供物と生贄がその深淵に供えられているのを見出した。だが真なる秘密とは、私が現在の称号を得るに至った知識とは?それにはまず、あなた方に広い見識と強い意志を持つようにお願いしたい。今から明らかにするのは、到底信じがたい内容だからだ。就寝前の怪談として、炉端で語られる作り話のように聞こえるかもしれない。だが保証しておこう、これは虚構などではない。

 偶然か幸運か、私が最初に迷い込んだ紡ぎ手へ捧げる祠で見つけたものとは?両親が待つ家からデイドラの遺跡を巡る旅へと私を駆り立てたものとは?それは声だった。美しく、魅惑的な。私に聞いたこともないような秘密を囁きかけた。囁きは古びてひび割れた像が発していた。その声は洞窟の壁にこだました。声は頭の中で響き渡って、ますます大きく激しくなり私の思考と記憶をかき消した。声は私を恐れさせた。その囁き声が。だが声は私を興奮もさせ、もっと聞かなければという衝動が生まれた。しかし紡ぎ手は、私に為すべきことを終えたようだった。彼女は知識と闇の秘密を伝えて、そして静寂が戻った。その場は再び打ち捨てられ、荒れ果てた地に戻った。

 もっと聞きたかったら…もっともっと聞きたかったら…別の祠を探さなければ。そうして私が生涯を捧げるべき勤めが定まったのだ。他の秘密の場所、隠された遺跡を見つけ出さねばならなかった。他のデイドラの声も耳にしなければならなかった。彼らを崇拝するからではない。悪しき魔法の力に屈したからでもない。ただ、私は更に多くを知り、この世界と共有せねばと感じたのだ。それが義務だった!使命だった!だが言葉を書き記しても、声が囁いたことを伝えられないと知ったのだ。私の手では囁きを文字にしようもない。どれほど試みようが、拒まれるのだ!

 私は使命を果たせなかったようだ。私に伝えられることは、学ぶべき秘密がそこにはある、という事実のみだ。だが本当に学びたいと思ったのならば、あなた方自身の足で辿り着かねばならない。闇の遺跡を訪れ、囁きに耳を傾けるのだ。もしかすれば私よりも首尾よく事を運ぶことができ、囁きに正気を奪われることなく済むかもしれない。

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めも

The Three 三賢者
 →トリビュナル=ヴィヴェク、ソーサ・シル、アルマレクシア

kwama scribs クワマ・スクリブ
 →クワマはモロウウィンドに住む虫みたいなやつ。フォレージャー、スクリブ、ワーカー、ウォーリアーなどなどさまざまな形態をとり、それぞれ役割分担しクイーンを頂点とした蟻のようなコロニーを築いている。スクリブは幼生。
 →巣は"mine"と表現され、文字通りモロウウィンドにおける重要な資源である。現地のダンマーはクワマを飼い慣らしたり、巣に眠る卵を「採掘」する。幼生も食用とされるが、特に卵は栄養豊富。

"Lust is love. Lies are truth. Death is life."  「色情とは愛。嘘とは真実。死とは生。」
 →訳しきれないかっこよさ