2014/07/25

Memories of Dorana(MOD:Moon and Starの書籍)日本語訳

クエストMOD「Moon and Star」(日本語訳作ったの)に書籍が出てくるんですけど、どうも入手条件が厳しいみたいで結局自分も手に入れられず終わってしまい、陽の目を見ないのも寂しいのでこれだけ置いておきます。

ドワーフの遺跡にて手に入る本で、 おまけ要素、ストーリー補完的なものでクエストには関係無いです。プレイヤーが入手した時点ではドワーフ語で書いてあって読めないのですがあることをすると…という


ドラナの追憶

カグレナク 著

 私はロマンチックな人物でも、詩人でもない。学者だ。創造者だ。高位工芸官、調性建築士長であり、同時に我等が民の未来を鍛造するという使命を課せられた者だ。このような地位を預かっていると、他人の目には私が感情的な絆や弱さを超越した存在のように映るらしい。自分自身でもそう思っていた。ドラナと出会うまでは。

 夜も更けた頃だった。私は誇りと挫折を糧に、眠ることもせず作業を続けていた。仕事自体は些細なものだった。同盟国のひとつに贈るための、付呪された指輪を作っていた。どういう訳か詳細は記憶に無いが、それは私を激昂させるようなものだった。薄暗い灯火の下でいくら目を凝らしても、机上の記録は釈然としないままだった。

 ガチャガチャという足音と共に、部屋に明かりが灯された。私は、兵士がランタンを持って来たのだろうと振り返った。だがそこに居たのは、明らかに普通の衛兵ではなさそうな、背の低い人物だった。顔は仮面に隠されていた。

 「暗い部屋でお仕事をなさるのは、体によろしくないですよ。閣下」と、衛兵が告げた。その女の声は明るく透き通るようだったが、兜によって少しくぐもっていた。

 彼女は告げ、小さなテーブルにランタンを置いた。小さく感謝の言葉を返し、私は仕事へと戻った。

 「部屋を明るくして本当に良い効果があるのならば、そうするだろう。今のこの調子では、頭をはっきりさせるのにランタンが1ダースは必要になるだろうが」こう呟いた。

 彼女は首を傾げた。「取ってまいりましょうか、閣下?」

 「単なる比喩だ。君は…」私は彼女の立っている、明るい場所へと近寄ろうとしてためらった。顔は隠れていたが、姿は見ることができた。まるで何かを隠しているかのように、手を後ろへと回し立っていた。兜の下の笑顔が透けて見えるような快活さがあった。自分の眉間にしわが寄るのを感じた。これもいずれ慣れてしまう感情だろう。「君は賢いようだな」

 彼女は首を横に振った。「そんな。貴方こそ賢い方だと聞いております、閣下」

 私は目を細め、顔をしかめた。長らくそのように話しかけてくる者は居なかった。あまりにも高い地位に居て、重要な仕事をいくつも抱えている私に、冗談を言う者などなかったからだ。何と返事をすれば良いか分からなかった。

 「名前は?」こう尋ねた。

 「ドラナと言います、閣下」小さなおじぎと共に、答えが返ってきた。

 「君は少々…戦士にしては元気が良いようだな、ドラナ」

 彼女は笑った。それは何者にも束縛されない、心から響くような笑い声だった。奥方達のような軽薄な笑いでも、もちろん戦士がするような笑い方でもなかった。

 「皆そう言うんです」彼女は肩の後ろへ手を伸ばし、戦槌の柄を軽く叩いた。「こいつを手にするまでは、ね」

 以後その部屋で幾度となく繰り返される二人の会話の、始まりはこのようなものだった。部屋の明かりが消えそうになると、ドラナが軽口とともに新しいランタンを持ってきてくれるようになった。始めの頃は過ごす時間も短く、会話を終えて苛立ちが残されることもあった。よくもこの衛兵は気軽に話しかけられるものだ。敬われるべき高位工芸官である私に。

 しかし、彼女に止めるよう言うことはしなかった。そればかりか、灯火が尽きそうになると戸をちらりと見て、ブーツをガチャガチャと鳴らしながら元気よく挨拶の言葉をかけられるのを、期待するようになっていた。会話の時間は次第に長くなり、私の不機嫌な態度も鳴りを潜めるようになった。笑顔を作ろうと努力することさえあった。

 もう夜遅くまで仕事のために起きている必要はどこにもなかったのだと気がついたのは、そのわずか数ヶ月後のことだった。仕事は単なる言い訳に過ぎなかった。本当に私に必要だったのは、会話だった。共に過ごす時間だった。彼女だった。

 実際に行動に移すのには、更に数ヶ月を要した。私は忍耐強く、周到なのだ。然るべき時にのみ行う。だから彼女に兜を取るよう頼んだのは、名前を聞いた8か月後だった。

 「この兜ですって?」と彼女は半分からかうように繰り返した。「そんなお願いをするだなんて。ご気分は宜しいのですか、閣下?めまいや熱がおありなのでは?」

 「いや、至って健康だ。いつもより良いくらいだ」と私は答えた。

 椅子から立ち上がり、彼女の方へ歩いていった。鎧をまとっていても、緊張で身をこわばらせるのが見てとれた。

 「君の顔が見たいんだ、ドラナ」

 彼女はためらった。ドラナはそれまで、ためらいなど見せることはなかった。「何故ですか、閣下?」

 「そのような見苦しい兜から、かように美しい声が響いてくるのに、耐えかねたのだ」

 「あら…」と彼女は驚き、言葉に詰まってしまった。しかしすぐにいつもの様子に戻った。「では別の兜を用意しましょう」

 私は久方ぶりに、腹の底から笑った。ドラナの笑い声がそれに重なり、抱いていた緊張や不安が消え去った。

 「いいですよ」笑いが収まると、彼女は言った。「お望みのままに、閣下」

 兜を頭から取り去ると、もつれた茶色の髪が肩へと垂れて、明るい青色の瞳が私の方を見つめた。傷ひとつない肌、というわけではなかった。額にはうっすらと鈍器による傷の跡があり、鼻は幾度かの骨折により歪んでいた。女性らしくない見た目を恥じるように、おどおどと笑みを浮かべた。

 「がっかりなさいましたか?」と彼女は尋ねた。

 「まさか」そう答えた。

 ドラナについて思い出すのはこのような光景だ。夜更けに作業場で交わした会話。堅苦しい宴席での派手ないたずら。笑い声と笑顔。それが追憶だ。共に過ごした最後の二年間、寝台の上で苦しみもがく彼女の咳き込みとうめき声ではない。青ざめた肌と涙を浮かべた瞳などではない。

 もし私がもっと早く鍛造に成功していれば。祭器を使う準備を整えていれば。真鍮作りの神も「心臓」も、全てはドラナ、貴方のためだったのだ。本当は貴方と共に祭器を埋葬してしまいたかった。あの笑顔を取り戻せないのなら、こんな物に何の意味があるだろうか?だがそうしなかった。いつか貴方のもとへ導いてくれると信じて、持っておくことにしよう。貴方の灯す光がなければ、この世界はあまりにも暗い。そんな世界に居たくない。

 誰であっても、そう思うだろう。

2 件のコメント:

サム・ライス さんのコメント...

はじめまして。翻訳のお陰で大変楽しくクエストクリア出来ました。
ありがとうございます!

墓地の鍵と翻訳前の日記を取得するには試練の箱の3つ全てに正解のアイテムを入れる必要があります(レプリカは誤答)。
第1と2の試練はすぐに正解がわかったのですが、第三の試練は失礼ながら誤訳をされているため動画を観るまでわかりませんでした……。
正解が鋼のインゴットなので
"冷たきそれは破壊し
熱きそれは創造す
おまえの命を包んでやろう この先で起こることに備えて"
といった感じの訳が適切かと思われます。

cryptoporus さんのコメント...

いえいえどうも、使っていただけてなによりです。
ご指摘いただいた部分ですが、一応正解は把握してまして(原文プレイのときは分からずスクリプトのソースから参照した)

つめたく冷やされ 姿を変えて →インゴットの状態から叩いて打ち伸ばす感じ
あつく熱され 姿を作る →溶けた鉄を鋳型に入れてインゴットの形になる
あなたの心を箱詰めしましょう この先に待ち受けるもののために →作って備えておこうね的な

と、そんな感じで製造過程をイメージした訳にしてました。
ですがおっしゃるように、完成品の使い道について焦点を当てた訳の方が分かりやすいですね!
謎解き部分はストレートに訳しても伝わらないだろうと悩んだ箇所なので、他の方の意見が聞けて嬉しいです。
うまい表現が思いつくか、本体が更新されるかしたら修正してみようかと思います。ありがとうございました!